王座戦2次予選
蘇耀国七段(黒) 対 石田芳夫九段(白) 黒137手まで、黒中押し勝ち

(株)チャイニーズドラゴン新報社のご好意により、同社の「チャイニーズドラゴン」週刊紙上の蘇耀国七段の「私の一手」より転載。囲碁界の若きホープ蘇耀国七段の対戦相手とのエピソードを織り込んだ棋譜をお楽しみください。

今回は石田芳夫九段との一局を紹介します。石田先生とは初めての対局です。石田先生は堅実な碁が特徴です。ヨセがとっても正確で、若いときからコンピュータの異名を持ち、史上最年少(22歳)の本因坊でもあります。その後五連覇を達成して、24世本因坊秀芳の名を得ました。こういう偉い先生と対局できることは、嬉しい気持ちで一杯です。自分の全力を尽くし教えを請います。

今思えば、僕は日本に来てもう10年近くなります。時間が過ぎるのはとっても早いものです。僕は普段、囲碁をする以外に、野球、サッカーなどいろいろな趣味を持っていますが、なかでも一番時間を費やしているのが、家で香港ドラマのビデオを見ることです。皆さんから見れば少し可笑しいかも知れませんが、この10年間、僕は数えきれないくらいの香港ドラマを見ています。僕がいつもビデオを借りている知音社も、きっと僕のことをとっても良いお客さんだと思っていることでしょう。ドラマの好みとしてはお笑いが好きです。それから、香港の現代社会を反映したようなドラマも見ます。こういう番組では、自分を犠牲にして他人のために尽くすような人、また他人を踏み台にしてのし上がる自分勝手な利己主義者など様々な登場人物がいて、まさに「人生百態」といった感じで、テレビを見ながらいろいろな人生を味わうことができる気がします。僕はこうしたドラマを見て、日頃のストレスを発散しながら、碁を並べたりします。ドラマは僕の神経質になりがちな棋士生活のなかで、とっても素晴らしい励みになっています。ドラマを見ていると、失敗や成功もあまり重要じゃなく、とにかく気持ちを前向きにし、努力していくことが大切だと思えます。

一人暮らしの僕は、自宅に居る時は退屈になったりします。1週間前から退屈を解消するために、ブラジル産の小亀を4匹購入しました。鶴は千年、亀は万年生きるから、食べ物を与えれば、面倒をあまり見なくても、自力で頑張れると思ったのです。買ってから2日後の夜、僕は珍しく水槽を覗いてみました。ところが、10分くらい小亀の動きを見ていましたが、小亀は全く動きませんでした。心配になって僕は手を水槽の中に伸ばし、小亀の様子を確かめたら、水槽の冷たさに気がつきびっくりしてしまいました。困ったなと思いながら、僕は家にある電気ストーブを水槽の近くに置き、電源を入れました。5分、10分が過ぎ、小亀はついに4匹とも電気ストーブの近くに来て、喜んでいるように動き出しました。僕はそれをみて、ほっとしましたが、今回の教訓を生かして、これからもっと本を読んで勉強し、小亀のことを大事にしていきます


11月16日、市ケ谷の日本棋院から帰る途中に、外堀通りで国際女子マラソンが行われていると気付き、僕は急いで見にいきました。選手達が次々に走って来ました。体中から汗が出て、顔の表情も辛そうですが、両手と両足の動きは依然、前後にリズムよく、目標に向かって、体力の限界に挑戦しているようでした。道の両側にいる観衆は皆、手を振り、選手がやって来るたび、頑張れと声を掛けます。何十キロも走って、ここに来た選手たちの体力は、ほとんど残っていません。これからの一歩一歩は意志力を必要とし自分と自分の戦いとなるのでしょう。僕は自分も囲碁を打つ上でこういった時があると思い、心から「頑張って」と夢中に応援しました。21世紀になり、自由、公平、競争の社会のなかで、皆はそれぞれ違った会社で働きます。仕事の努力は、ある大きなレースをしているようです。なかには成功を収める人もいますが、まだ頑張り続けている人もいて----。とにかく、強い意志力を持つことは、とっても大事なような気がします。

この一週間、僕はとっても疲れました。木曜日の負けが辛かったのでしょう。気持ちはずっと辛いままで、切り替えることが出来ませんでした。日曜日、気分転換に外に出ようと思い、昼に葛西臨海公園に行きました。緑色の芝生に沿って、ゆったりと海に向かって歩くと、目の前に太陽の光が眩しく輝いていました。広い海を見つめていると、僕は今まで憂鬱だった気持ちが嘘みたいに消え、愉快な気持ちになりました。頭の上にユリカモメが翼を広げて空を飛んでいました。その後、葛西臨海公園の島類園を見て、人類は自然環境のために頑張っているということを実感しました。公園はすっかり冬の景色になっていました。黄色に色づいた木々が公園を覆っており、春がやってくるのをまっているようです。それはまさしく、今の自分の気持ちと同じでした。僕は、来週の手合いに向けて頑張って行こうと思いました。

冬の寒い中、市ケ谷の日本棋院に行く途中、駅前で子供達が北風を気にせず、半ズボン姿で元気に遊んでいました。僕の故郷広州では、冬一番寒い時期でも5度以下になることはありません。でも、両親は毎朝、僕にまるで中華粽を包むように一枚一枚服を重ねて着せます。学校に行くと、同世代の子供も僕と同じく、上から下まで完全防備されていました。僕たちは小さい時から親に溺愛されています。冬の服だけでじゃなくて、親は自分が出来ることならすべてやってあげるのが当たり前と思っているのが怖いです。それと違って、日本の子育てはバランスがよいと思います。子供が出来ることは自分でこなし、必要な時には、親がしっかりと子供達に教えます。そうです、時には子供を手放した方が、逞しく育つのでは----。

石田先生が投了した瞬間、僕はとっても嬉しかったです。石田先生に教えて頂けて本当に光栄に思います。


 

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